百年の永遠

KPレス クトゥルフ神話TRPGシナリオ

はじめに

このシナリオは一人用のKPレスクトゥルフ神話TRPGシナリオです。
夏目漱石「夢十夜」の世界を舞台に、あなたは写本の世界に取り込まれた探索者となります。
文字を読むのが好きな人、でっかいダイスを振りたい人向けのシナリオです。


イントロダクション

「兄を捜して欲しい」
そう依頼を受けたあなたは古書店へと足を運んだ。
そこで見つけた一冊の写本の中に、あなたは取り込まれてしまう——。


= 己の意志にて改竄せよ、運命を =


シナリオ情報

※画面右上の「音声を有効化」をクリックすると音楽が流れます。
より演出を楽しみたい方はぜひお試し下さい。

遊び方

このシナリオはほぼ一本道で進行します。
画面に表示される選択肢を選び、物語を進めてください。



 


 

※本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」


このシナリオは
【CENTUM SOMNIA ✦ CoCシナリオ一斉投稿企画】様に合わせて
2025.3.23に公開されました。

【BGM・効果音】
ポケットサウンド/効果音素材効果音ラボhttps://dova-s.jp/

第一頁:依頼

あなたは関漱二という青年から「兄の行方を探して欲しい」という依頼を受けます。

「兄と3日前から連絡が取れないんです。3日前、僕の誕生日を祝う為に会う約束をすっぽかされたんです。兄は奔放な性格ですが、僕との約束を破ったことはありません。周りはたった3日で大袈裟だと言うのですが、何かあったに違いないんです。」

そう必死に訴える関漱二。
彼は兄、【関漱一】のSNSアカウントの最後の投稿を見せてくれます。それは依頼者と会う2日前、つまり今から5日前の日付です。

「古本屋で貴重そうな本を見つけた! 弟への誕生日プレゼントにしようかな?」という内容が写真と共に投稿されていました。

写真は2枚。
「古書店の外観の写真」と「古書のような何かが写っている写真」です。写真に写っている看板を見ると、書店の名前は「星辰古書店」。

写真の詳細

「古書のような何かが写っている写真」をよく見ると、写真は酷くブレていて、本のタイトルは分かりません。しかし、何か得体の知れない不気味さを感じます。

正気度判定 (0/1d2)を行ってください。

第二頁:星辰古書店

あなたのいる町からそう遠くない場所にその書店はありました。SNSで見た通り、古めかしい看板には「星辰古書店」と書かれています。建物は二階建てになっていて、二階にも本があるようです。

中に入ると、店主に聞き込みができます。

「あぁ、このお客さんならつい最近も来ましたよ。前から何回か来てくれていた人で…たしか先週のことだったかな」

「えっ、行方不明なんですか?」

「そういえば、いつもは帰るときに『また来る』って明るく声をかけてくれる人なんですけど、その日は気付いたらいなくなってましたね」

「その日は珍しく二階に上っていったのを覚えています」

「店内を見ていく? かまいませんよ。二階へ続く階段は本で狭くなってしまっているのでお気をつけて」

一階の探索

一般的な古書店といった風情です。所狭しと本が並んでいます。

〈目星〉判定を行ってください。

一階の探索(目星成功)

全体的に天文関係の本が多いと気付きます。また、植物の本も多いようです。

〈図書館〉判定を行ってください。

一階の探索(目星失敗)

特に気付くことはありませんでした。

〈図書館〉判定を行ってください。

一階の探索(図書館成功)

「植物の雑学」という本を見つけます。

ユリはなぜ漢字で「百合」と書くのか?

この漢字はユリの球根「ユリネ」に由来すると言われています。ユリネは1枚1枚むく事が可能です。これをりん片と言いますが、その数はおおよそ100もあります。それにちなんで、ユリを百合と書くようになったそうです。

一階の探索(図書館失敗)

特に気になる本はありませんでした。

二階の探索

階段の段ごとにも本が積み重なっています。人一人通るのがやっとの狭い階段を上ると、扉などはなく、すぐ部屋になっていました。

本棚が並ぶ奥に机があるようです。

二階探索(机)

机には様々な古書が置かれています。そのうち、一冊の本が目に留まりました。

よく見ると、それは「夢十夜」という題名の本でした。手書きのようで、どうやら写本のようです。表紙には「第一夜」と書かれています。

二階探索(引き出し)

机の引き出しを開けてみると、万年筆とメモ帳が入っていました。

メモ帳には「百合の花言葉は純粋・無垢」という走り書きがあります。

アイテム入手:万年筆

二階探索(部屋全体)

〈目星〉判定を行ってください。

二階探索(目星成功)

部屋の隅にある小さな戸棚に気づきます。開けてみると、中には鉛筆と消しゴムが入っています。

アイテム入手:鉛筆、消しゴム

二階探索(目星失敗)

特に気になるものは見つかりませんでした。

写本の中へ

本に触れた瞬間、あなたはぐるぐると渦巻く感覚に襲われます。

視界が真っ暗になり、どこかへ落ちていくような感覚。

 

——気がつくと、見知らぬ部屋にいました。

正気度判定 (0/1d3)を行ってください。

写本の中へ

自分の持ち物を確認すれば、現代のものは全て使えなくなっていました。

スマートフォンはただの金属の板に。

筆記用具は万年筆に。

自分の服装も、古めかしい格好に変わっていました。

見知らぬ和室

和室で、縁側に続く障子は開け放たれています。外に視線を向ければ、星々の瞬く夜空が見えます。

しかし、夜だと言うのに室内は不自然に明るく、まるで日中のように明るいのです。

部屋の中央には布団が敷かれ、そこに女性が横たわっています。一人の男性が女性の枕元に腕を組んで座っています。

突然、あなたの目の前に文字が現れました。

夢十夜 第一夜

 こんな夢を見た。  腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然云った。自分も確にこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開けた。大きな潤のある眼で、長い睫に包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸の奥に、自分の姿が鮮に浮かんでいる。

EDU×5判定を行ってください。

夢十夜 第一夜(EDU成功)

あなたはすぐに気づきました。これは「夢十夜」の一節であると。

夢十夜とは

夏目漱石による、全十編で構成された短編集。「こんな夢を見た。」の書き出しで知られています。

夢十夜 第一夜(EDU失敗)

しばらく考えて、これは「夢十夜」の一節かもしれないと気づきました。

夢十夜とは

夏目漱石による、全十編で構成された短編集。「こんな夢を見た。」の書き出しで知られています。

夢十夜 第一夜

再び、空中に文字が流れ始めます。
いいえ、これはあなたの視覚に直接浮かび上がってくるのです。
目を閉じても、視線を逸らしても、その文字はあなたの視界を奪い続けます。

 自分は透き徹るほど深く見えるこの黒眼の色沢を眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、ねんごろに枕の傍へ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまた聞き返した。すると女は黒い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、仕方がないわと云った。

それを読み終わると、突然、あなたの胸に悲しみが湧き起こりました。

POW×5判定を行ってください。

夢十夜 第一夜(POW成功)

不自然なほど強く感じる感情に違和感を覚えました。これは自分の感情でしょうか。まるで誰かの感情が自分に流れ込んでくるようです。

夢十夜 第一夜(POW失敗)

不自然なほど強く感じる感情に違和感を覚えました。この強い悲しみは何なのでしょうか。疑問には思えど、湧き上がる悲しみはあなたを蝕むように広がっていきます。

正気度判定 (0/1d3)を行ってください。

夢十夜 第一夜

 じゃ、私の顔が見えるかいと一心に聞くと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。自分は黙って、顔を枕から離した。腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思った。

部屋の探索

あなたは部屋を探索することができます。

いつのまにか男の姿はなくなっており、この空間にいるのはあなたと布団に横たわる女だけです。

 

箪笥の探索

箪笥の引き出しを開けると、中に大きな真珠貝が入っていました。不思議なことに、ぼんやりと光っています。まるで周囲に月の光が反射しているようです。

アイテム入手:真珠貝

机の探索

机の上には、古びた星図が広げられています。ある星座が赤い線で囲まれています。

その横には「星の破片は丸い」というメモ書きがあります。

情報入手:星の破片に関する手がかり

女性の布団を調べる

あなたは布団に横たわる女性の顔をそっとのぞき込みます。美しい女性でした。女性の目は大きく開かれており、その黒い瞳はあまりにも深く、まるで底なしの穴のようです。

あなたはその深淵を、奥深い闇を、覗き込んだような気分になります。そこには何かがありました。——それは、何か、言葉にできない恐怖でした。

正気度判定 (0/1d4)を行ってください。

女の布団を調べる気にはなれず、あなたは女から目を逸らしました。

庭の探索 2

関漱一の近くに、一冊の本が落ちているのを見つけます。

それは魔導書のようでした。様々な人物の筆跡で書き繋がれたそれは、ここに取り込まれた人々が書き残していったものだということが察せられます。

そこには何者かを呼び出すための呪文が書かれていました。
意味の分からない言葉の羅列。けれど、それはどこか冒涜的な響きを含んでいました。

また、魔導書の走り書きにはこうありました。

 

"天の書にも人の筆あり、己の意志にて運命を改竄せよ"

 

呪文入手:「女」との接触の呪文

コスト:1POW、1d6正気度ポイント
100d100をロールし、1の出目の数が100の出目の数より多ければ成功となる。
この呪文を試みることが出来るのは1度きりである。
(基本ルルブ261p「ノーデンスとの接触」の改変)

夢十夜 第一夜

 しばらくして、女がまたこう云った。 「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」

夢十夜 第一夜

 自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。 「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、――あなた、待っていられますか」  自分は黙って首肯いた。女は静かな調子を一段張り上げて、 「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。 「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」  自分はただ待っていると答えた。すると、黒い眸のなかに鮮に見えた自分の姿が、ぼうっと崩れて来た。静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱちりと閉じた。長い睫の間から涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた。

大事な人を失った悲しみが、あなたの胸にさざ波のように広がりました。

正気度判定 (1/1d3)を行ってください。

夢十夜 第一夜

 自分はそれから庭へ下りて、真珠貝で穴を掘った。真珠貝は大きな滑かな縁の鋭どい貝であった。土をすくうたびに、貝の裏に月の光が差してきらきらした。湿った土の匂もした。穴はしばらくして掘れた。女をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。掛けるたびに真珠貝の裏に月の光が差した。

文字が流れるのはそれきり止まってしまいました。時間が進んでいないようです。

あなたは、男と同じように真珠貝を使って穴を掘る必要があるのではないかと思い至りました。

真珠貝で穴を掘る

真珠貝を使って土を掘り進めます。力を入れて、一掬いずつ土を除けていきます。

ここではSTR×5またはCON×5の判定を3回成功させる必要があります。

一度失敗するごとにHPまたはSANまたはMPを1ポイント失います。

夢十夜 第一夜

穴を掘り終えたあなたは、男と同じように女をその中に入れ、土をかけていきます。女の姿が見えなくなった頃、再び文字が流れ始めました。

 それから星の破片の落ちたのを拾って来て、かろく土の上へ乗せた。星の破片は丸かった。長い間大空を落ちている間に、角が取れて滑かになったんだろうと思った。抱き上げて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し暖くなった。

星の破片を見つけて、土の上に置く必要があるようです。

星の破片を探す

庭を見渡すと、遠くに何か光るものが落ちているのが見えます。近づいて見ると、それは丸く滑らかな石のようなものでした。触れてみると、わずかに温かみがあります。

これが星の破片に違いありません。

アイテム入手:星の破片

夢十夜 第一夜

 自分は苔の上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組をして、丸い墓石を眺めていた。そのうちに、女の云った通り日が東から出た。大きな赤い日であった。それがまた女の云った通り、やがて西へ落ちた。赤いまんまでのっと落ちて行った。一つと自分は勘定した。  しばらくするとまた唐紅の天道がのそりと上って来た。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定した。  自分はこう云う風に一つ二つと勘定して行くうちに、赤い日をいくつ見たか分らない。勘定しても、勘定しても、しつくせないほど赤い日が頭の上を通り越して行った。それでも百年がまだ来ない。しまいには、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女に欺されたのではなかろうかと思い出した。

あなたは、「夢十夜」の物語が終わりに近づいていることを感じとります。
そして、あなたの胸にも、「女に欺されたのではなかろうか」という疑念が渦巻いてきます。

これまでの情報から、「女」を呼び出すための儀式が必要だと分かるでしょう。

儀式の選択

コストを支払って呪文を唱えることで、儀式を試みることが出来ます。
もちろん、行わない選択も出来ます。

儀式の説明:
コスト:1POW、1d6正気度ポイント
100d100を振り、1の出目の数が100の出目の数を上回れば「女」を「男」に会わせる事ができます。

万年筆や鉛筆、消しゴムはそれぞれ1回ずつ出目を書き換えるのに使うことができます。

例)100→ゼロを一つ消して10に、15→5を一つ消して1に。
たとえば、100d100で1が3つ、100が5つ出た場合、アイテムを3つ持っていれば5つある100のうち3つを10に書き換えることが出来ます。そうすると、1が3つ、100が2つになるので、儀式は成功します。

あなたの強い意志を持って、運命を書き換えて下さい。

儀式の結果

あなたは儀式を行いました。

呪文を唱え終わった後、不思議な力が周囲に満ちるのを感じます。

儀式に成功したのだと、直感的に理解することが出来ました。

儀式の結果

あなたは儀式を行いました。

呪文を唱え終わった後、不穏な予感があなたを支配しました。

儀式に失敗したのだと理解してしまうでしょう。

儀式の放棄

あなたは儀式を行わないことを選びました。

徐々に時間の感覚が失われていきます。どれくらい経ったのでしょうか。

この世界に閉じ込められたまま、物語は進みません。

「女」

 すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺ぐ茎の頂に、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと弁を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂った。そこへ遥の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。 「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。

目の前に再び文字が流れ出すと同時、「女」が「男」の前に現れました。

意識がふつりと切り離された感覚があります。
そこで初めて、あなたはいつの間にか「男」と同化しかかっていたことに気がつきました。
今、「男」は「男」であり、「あなた」は「あなた」です。

儀式に成功したあなたは、「女」と「男」の邂逅の目撃者となります。

百合<リリス>:夜の女王

現れた「女」はあまりにも美しく、美しく。——美しすぎました。

豊かに波打つ漆黒の髪は月明かりを吸い込むように輝き、その肌は真珠のように白く、まるで月光そのものが形を成したかのようです。深い赤色の蠱惑的な唇はゆるやかに弧を描いています。思わず呼吸を止めてしまうほどの、圧倒的な美。

まるで百合そのもののような、かぐわしい匂いとともにその女はそこに佇んでいました。

しかし、その瞳を見た瞬間、あなたは背筋に冷たいものが走るのを感じました。新月の夜のように艶やかな黒い瞳の奥には星々が瞬き、人間の理解を超えた何かが宿っています。彼女の微笑みには慈愛と残酷さが同居し、その佇まいは人間とは明らかに異なる何かを感じさせます。

「女」はゆっくりと手を伸ばし、まるで時が止まったかのような静寂の中、「男」の頬に触れました。

まるで、「男」が白い花弁に接吻したときのように。

 

暁の星の輝きがだんだんと増し、眩くあたりを照らし始め、あなたの意識はゆっくりと遠のいていきました。

現実世界へ

気がつくと、あなたは星辰古書店の二階に立っています。手には一冊の「夢十夜」の写本と、一本の百合の花が。
花弁は白く、僅かな光の中でもほのかに輝くように白く、甘い香りが鼻腔をくすぐります。ですが、その香りにはどこか土の湿った匂いが混じっていて、あなたの庭での記憶がまざまざと思い出されます。
スマートフォンは依然として冷たい金属の板のままで、使った筆記用具も、服装も、古めかしく形を変えたまま。
あれは夢ではなかったのだと、静かに確信します。

階段の軋む音に視線を向けると、店主が現れます。
「おや、そこにいらっしゃったのですか。さっきまで姿が見えなかったので……」

関漱一の姿はどこにもなく、彼が残した鉛筆とメモが、あなたのポケットの中で静かに存在していました。

古書店を去るとき、背後で風がそっと吹き抜け、百合の香りが一瞬だけ濃くなりました。振り返っても誰もおらず、——あの匂い立つような美しさの女はおらず——ただ、古書店の看板が風に揺れているだけでした。

終幕 - 壱:百合の残り香

あなたは写本の世界から脱出し、現実へと帰還しました。
関漱一の行方は依然として不明であり、彼は自らの意志で物語に留まったのかもしれません。

関漱二に、漱一の残した筆記用具やメモを届けることは可能です。

手元の百合のかぐわしい匂いが、あなたに静かな問いを投げかけます——あの夢は終わりを迎えたのか、それとも別の頁で続いているのか。
手の中の写本は、何も答えてはくれません。


 

報酬

写本から無事帰還した:SAN回復1d6

関漱二に漱一の持ち物を渡した:SAN回復1d6

POW回復:写本を最後まで読む事で1POWを回復する。

神話技能:<夢見>…探索者の初期POWと同値の初期技能値を獲得。

夢見の百合:オリジナルアーティファクト。枕元に置いて寝ることで1度だけ夢の中でドリームランドを訪れることができる。使用すると枯れ、崩れ落ちる。使用しなくても、100日経つと同様に枯れ、崩れ落ちる。

失敗の代償

「女」は現れず、ただ沈黙が重くのしかかります。どこを見渡しても、世界は何も変わりません。
ですが、あなたの胸の中で何かが蠢き始めます。それは、「男」の記憶でした。

——百年を待ち続ける孤独、女への狂おしい執着、そしてその果てに訪れる虚無。あなたの自我が溶け出し、彼の感情が血管を這う毒のように広がっていきます。

あなたは「男」と同化し、「男」と成り果てたのです。

風が止まり、星々が空で凍りつき、赤い太陽が永遠に昇っては沈むのを繰り返します。

時間の感覚が崩れ落ち、あなたは気づくでしょう——ここは墓なのだと。
「あなた」の墓であり、「男」の墓であり、終わらない妄念の牢獄であると。
「あなた」は、いえ、「男」は、待ち続けます。

数多の探索者達を飲み込み、均衡の崩れたこの世界に「女」が戻ることはないでしょう。
それでも、「男」は待ち続けるしかないのです。
——その約束が虚構だと知りながら。
「男」は、そのためにこの世界を作ったのですから。

 

最後に残った意識が叫びを上げようとして、それも叶わぬまま、あなたは「男」としてこの世界を形作る機構の一つとなりました。

 

終幕 -弐-:百年の永遠

儀式に失敗し、あなたは「男」と同化しました。写本の世界に囚われたまま、永遠に百年という時間を繰り返し続けることになります。

 

「男」はこの世界で、ずっと待ち続けるのです、「女」のことを。
—— たとえそれが、いつまでも果たされない約束だとしても。

 

 

結末

「男」との同化が完了し、もはや元には戻れません。

「男」はこの場所から動けません。動きません。

探索者はロストしました。
※ロスト救済シナリオに行く場合は、ドリームランドで開始するシナリオである必要があります。「男」と同化した設定はKPさんとご相談下さい。

閉じた世界

儀式を行うことなく、あなたはただ物語の中で時間が過ぎるのを待ちます。

物語は進まず、時間も進みません。

けれど、あなたが感じるのは恐怖ではなく、奇妙な安堵でした。
あなたは魅入られてしまったのです。
それは「女」にかもしれないし、「男」にかもしれないし、この「世界」そのものにかもしれません。
庭で朽ち果てつつある関漱一と同じように、この閉じた世界に留まることを自ら望んでしまったのです。

 

いつしか、あなたの体は動かなくなり、ただの屍となっていました。

 

終幕 -参-:百合の魅了

現実世界の星辰古書店には、あなたの姿はありません。

あなたを飲み込んだ写本は、ただそこに佇んでいます。

「——あぁ、また、か」
階段を上ってきた店主が残念そうな、面白がるような、嘆かわしそうな声でそう言いました。

 

あなたは写本の頁に刻まれた何人目かの犠牲者となりました。
けれど、
——あなたは自ら、この結末を選んだのです。

 

結末

あなたは写本から脱出できず、やがて屍となりました。

探索者はロストしました。

※ロスト救済シナリオに行く場合は、ドリームランドで開始するシナリオである必要があります。

背景

「夢十夜 第一夜」に魅入られた「男」が、なんとかして理想の「女」に会いたいと願ったのがことの発端である。

幸か不幸か「男」には魔術師の才能があり、魔力を宿した写本を作ることで「夢十夜 第一夜」の世界を構築することに成功した。「男」は百年を永遠に繰り返すことを目的として、この世界をドリームランドの中に作り上げたのだ。究極、「男」には「女」すら必要なかった。ただただ、「百年を待たせることを是とする存在に出会えた男」になりたかった。
ドリームランドに住まう夜の女王・リリスは「男」の妄念を微笑ましく思い、その招来の呪文に呼応した。そして「女」となってこの世界を作るのに手を貸した。まるで恋い焦がれるように純粋な狂気を持つ「男」に憐れみをかけたのだ。事実、男はもはや狂っていた。

だが、関漱一を始め、写本に触れた不幸な探索者たちが写本の世界に取り込まれるにつれ、写本の世界に歪みが生じ、物語が進まなくなっていく。

儀式に成功し、「女」、つまり大いなるものにしてドリームランドに存在するリリスを呼び出すことで、この写本の世界を強制的に終わらせることが可能となる。

「女」は最後、約束通り「男」に会いに来たのだ。


あとがき

はじめまして、笹塚と申します。最後まで遊んでくださってありがとうございました。

このシナリオは夏目漱石「夢十夜」をモチーフにしたクトゥルフ神話TRPGシナリオです。

クトゥルフ神話TRPGを楽しむようになり、「いつか自分でもシナリオを書いてみたいな…」と思っていたのですが、【CENTUM SOMNIA ✦ CoCシナリオ一斉投稿企画】様を知り、「書きたい!」と思ったのがこのシナリオ執筆のきっかけです。

「百」がテーマと聞いてすぐに思いついたのが「夢十夜 第一夜」でした。元々、どのジャンルにはまっても「夢十夜 第一夜」のパロディを妄想してしまうくらいにはこの作品が好きで、そこに
「せっかく100がテーマなら100d100を振れたら面白いな」
と思ったのがシナリオの出発点でした。
最初は普通のシナリオとして頒布しようと思っていたのですが、どうしても夏目漱石の文章を縦書きで楽しんで欲しくなり、久々にサイト構築までしてしまいました。作っていて大変楽しかったです。

初シナリオですが、楽しんでいただけると幸いです。

ご意見・ご感想がありましたらマシュマロ(https://marshmallow-qa.com/waiwai1132)またはTwitter(X)(@waiwai1132)までお寄せ下さい。
この物語にネタバレ要素は特に無く、エンド報告の記述も自由です。

遊んでいただきありがとうございました!

参考文献・引用

  • クトゥルフ神話TRPG第6版
  • ラヴクラフトの幻夢境
  • マレウス・モンストロルム
  • 夏目漱石「夢十夜」(青空文庫